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トスカーナ日記

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4月25日

今、私たちの空き地に馬が一頭下宿しています。
名前は「デイアボロナントカカントカ・・・」。
長い名前なので家のものは誰もはっきりした名前は知りません。 すらっとしたいつもの馬ではなく、私も一度山の中で見たことがある背の低いワイルドホースです。

家の大家さんが昔、馬を2頭持っていたそうで、家の前にある谷を下りていく所に馬小屋が今でも残っています。
そこに勿論馬が一人で「貸してください・・・」とやって来たわけではなく、アイルランド人の持ち主が尋ねてきたわけです。
どうして連れて来たかといいますと、なんでもこの馬が子馬を生んだので、その子馬と離すために連れてきたのだとか。
聞いてビックリしました。
「お馬の親子は仲良しこよし、いつでも一緒にぽっくぽっくり歩く」
という歌を小さい頃に習いましたが、母親馬と子馬はいつも一緒にいるものだと思っていましたので、この理由がいまだに理解できないでいます。

海際に家を建て、9頭の馬を持っているスイス人の友達のところで、子馬が生まれた所に遭遇したことがあります。
それから何度も彼らのところへ行くたびに、大きな草原に母親馬と子馬がいつも一緒にいる所を見ました。
母親馬が歩くと子馬も歩く。止まると子馬も止まる。
本当に歌の通りなんです。

でも、うちに下宿している馬はどうしてか、ひとりぽっち。
ちゃんとした理由があるのでしょうが、それにしても産みたての子と離されてしまった母親馬の心境とは、どんなものでしょう。
寂しいに違いありません。子馬に会いたくて悲しい思いをしているに違いありません。
だって、その証拠に彼女は2回も馬小屋から逃げ出したのですから。

一度目は2週間ほど前でした。
彼女(母親馬)が私たちのところへやって来て直ぐです。
アイルランド人のオーナー、ジョーが馬を連れてきて馬小屋に入れ、藁などを敷いてさあこれでしばらくはここに居てね、と下宿先を整えたその夜。
彼女は逃げ出したのです。

どうやって彼女が馬小屋のドアを開けたのか、誰にも分かりません。
ドアには釘をさして閉めるようになっており、ジョーは確かに閉めたといっているのです。
聞いたところによると、真夜中の1時ごろ、ジョーの所に警察から電話があり、町にある唯一の信号のところでジョーの馬を見たという人から連絡が入ったのだそうです。
そりゃあ、真夜中に馬が道路を歩いているのを見た人はビックリしたことでしょう。
ジョーはあわてて駆けつけたそうなんですが、馬はもうそんな所に居ません。
いろいろ探した結果、この母親馬は子馬がいるところに戻っていたのだそうです。
動物の本能とはすごいものです。
私たちの場所から子馬が居る場所までかなり離れています。
どうやって子馬の居る場所が分かったのか。
車が走る道路を子馬を探してパッパカ、パッパカ走って行ったかと思うと可愛そうで。

そして2回目の脱走が2日前だったのです。
この日は、ジョーの息子さんが、少しは草原に放してあげるのもいいだろうということで、鶏用に作っている柵の中に放したのです。
オリーブの木が何本か立ち、草もぼうぼうと生えています。
柵もありますから、馬にもちょうどいいと思ったのです。

私と主人が彼女(母親馬)を見に行きますと、恥ずかしそうだけど、でも主人が歩く後を柵の中からですが、いつも着いてきます。
やっぱり人間が好きなのね。一人じゃ寂しいよね。
なんて勝手なことを言いながらしばらく相手をしていましたが、大家さんちの奥さんがコーヒーを作ったから飲みにいらっしゃいと言ってくれましたので、家の庭のほうに入っていきました。
そしてさあいよいよコーヒーを飲もうか、というときにちょうど車で遊びに来た友達が、息せき切って
「ちょっと、あの馬が道路を走っているのを見たわよーー!!」と教えてくれたのです。

さあ、大変。どうしよう。
私も主人も馬に慣れていませんから、どうしていいか分かりません。
ちょうどそのとき、谷で仕事をしていた大家さんちの親戚も馬が逃げるのを見たようで、はっは言いながら駆けつけてくれました。
なんだか映画のようですが、そこにうまい具合に一緒に仕事をしていた親戚の奥さんが車で駆けつけ、大家さんちの奥さんは馬の手綱を手に取り、親戚一同馬の後を追いかけて行ってしまったのです。

後に残ったのは、コーヒーのいい香りと、私と主人と遊びに来た友達夫婦。

なすすべもない私たちは、コーヒーを飲むのさえ忘れて、どうなるのか待っていました。
それにしても、前回は車の少ない夜だったのでまだしも、今回は車の多い昼間時です。
馬は車におびえ、車に乗っている人は走っている馬を見てビックリしているに違いありません。
そうしている間に、警察から馬を見かけたから来てくれと言う電話が2度も入り、それを奥さんに知らせようと思うにも今度は彼女の居場所が分からない。
「まっ、どうしようもないね。せっかく作ってくれたんだから、コーヒーでも飲んで、ここは解散にしよう。」
と私たちはそれぞれの家に戻ったのです。

そうして母親馬はやはり子馬の居る所で発見されました。
今はどうしているかって?
又ここに連れ戻されているのです。
さあ、今度はいつ3度目の脱走を試みるのか・・・。