Kiyomi D.

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子羊と羊飼い

agnello

今日は3月21日。いよいよオフィシャルに春です。
トスカーナは 先週からぐんぐんいいお天気になり、今日は気温30度を超しました。
平年でしたら18度前後が平均気温だそうです。
毎年、復活祭(今年は3月27日)までは寒さが続くと言われているのですが、どうやら今年はちょっと違うようです。
そのお陰で、一度雪の為に満開の前に枯れかけたミモザの花が今見事な黄色い花をたわわに咲かせています。

さて3月もいよいよ後半なのですが、3月は羊の赤ちゃんが生まれる時期だと言うことをご存知ですか。
ネット上の日本の新聞にそう出ていて、25頭ほどの羊の赤ちゃんが生まれた牧場が紹介されていました。
実は大家さんのダンテが去年の末、友達から 雄1頭、雌3頭 の羊4頭をもらってきて育てているのですが、その羊達にも例外なく子羊が生まれたのです。
羊の赤ちゃんが生まれる時期と言うのは世界共通なのだと知り驚いています。

さて、この羊達、いらなくなってどう処分しようかと悩んでいた友達からダンテが譲り受け、家の前の谷に大きな囲いを作りそこで飼い始めたのですが、羊の世話をしているのはジョン・クロードです。
ダンテは電気会社に勤めていますので時間がほとんどなく、日中時間が自由になるジョン・クロードにその仕事が回ってきたのです。
ジョン・クロードは都会生まれの都会育ちですが、旅行が大好き、田舎が大好きで何事にも熱中する人ですから、この羊の世話にも熱中し始めました。
特に彼の仕事はコンピューター関係で、自分で気をつけないと1日中PCの前に座りっぱなしになりますので、外へ出て何かをするのが大変気に入っているようです。
今ではジョン・クロードは 羊飼いと変貌し、毎昼食後は必ず谷におりていき羊達を柵の外に連れ出し草を食べさせています。

特に、子羊(アニエッロ)が生まれてからはさらに羊のところに行くのが楽しみになったようです。
ある朝、羊の小屋に入るとそこに生まれたての、まだへその緒をつけた子羊が藁の上に座っていたそうです。
そしてみる間に立ち上がり、生まれて数十分後には歩き始めたそうで、動物は本当に強いものだと驚いていました。
人間が歩けるようになるまで約1年はかかるのに・・。

このアニエッロがそれは可愛いのです。
親羊の毛は土埃で茶色に変色していますが、子羊の身体は真っ白で、目と耳の部分がピンク色です。
ぬいぐるみそのまま。
足がまだしっかりしていなくて、地面がでこぼこしているとよろけるし、ジャンプしようと跳ね上がるとよろけるし、走っていて急に止まろうとするとつんのめるし、可愛くて見ていて飽きません。
特に2頭目が生まれてからは、いつも一緒に歩き、遊び、並んで座り、まるで兄弟のようです。
そして、そろそろ3頭目も生まれるのです。

私も時々ジョン・クロードについて谷に下りていきます。
この間は、私が羊飼いをやってみました。
羊達は先頭に行く羊に従う習性があるので、扱いやすい動物です。
草の生えているところに羊達を連れて行き、後はそこでボーッと静かに時間を過ごすだけです。
羊飼いのおじさんになった気分。
こんな時、羊飼いのおじさん達は何を考えているのでしょうか。

実は私が羊に接するのはこれが初めてではありません。
25年ほど前になりますが、スペインの田舎エクストレマデウーラに3年間住んでいた時、羊飼いのおじさんから生まれて2日目の子羊をもらったことがあります。
早朝、裏の木戸をトントンたたく音がするので言ってみると、羊飼いのおじさんが子羊を抱えて立っていました。
「ボエナスデイアス!」と私が挨拶すると、私にその子羊をポンと手渡し、「ミルクをあげて育てるのだよ」と言って行ってしまいました。
勿論知っている羊飼いのおじさんですが、子羊をくれるなんて全く言っていませんでしたので、私は驚いてしまいました。
子羊はへその緒をつけて私の腕の中で速い呼吸をし、それでもおとなしく抱かれていました。
それから私は自転車に飛び乗り村にミルクと哺乳瓶を買いに走りました。

彼女には「シャーフリ」と言う名前をつけました。ドイツ語で子羊と言う意味です。
私がミルクをあげるので、シャーフリはすっかり私をママだと思い込み、いつでも私の後をついてきます。
そしてミルクを飲もうと私の後ろ足を濡れた鼻でつつくので、くすぐったくてしばらくスカートがはけませんでした。
私が「シャーフリー!」と呼ぶと「メ~~~」と答え、一緒に散歩にも行きました。
とにかく私の後をついてくるので散歩もしやすいのですが、ただ葡萄の葉や実が大好きで、葡萄畑の横を通り過ぎる時、私は必死で走り抜けたものです。
シャーフリが巻き毛の大きな女性に成長した時、私はスイスへ帰ることになり別れる時が来ました。
食べないでね、とお願いして羊飼いのおじさんに引き取ってもらったのがついこの間のようです。

・・・そんなことが頭をよぎりながら、 私は新しい羊の仲間のそばに座り込みました。

広い平野の中で羊達がひたすら草を食み、
子羊達は母親の後を静かについて回る。
カラン、コロン、と羊の首についたベルが鳴り、
私の横には飼い犬のアクシがお行儀よく座っている。
ああ、太陽の日差しが私の背中に暖かい。
聞こえるのは透き通った鳥の声だけ。
・・・なんという静けさ。

そんな中にじっと身を置いていると急に、大きなトスカーナの風景の中にぽつんと座っている私が見えました。
空気は 暖かく 幸せに漂い、他次元に入り込んでしまったような、そんな感覚。
ただただ、平和。
過去も未来もなく、今現在があるだけ。

羊飼いのおじさん達もいつもそう感じているのでしょうか・・。

agnello

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