Kiyomi D.

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イタリアの美容院

一時かなり寒くなったトスカーナですが、2日前から急に又暑くなりました。
暑くなったといっても勿論真夏時のような暑さではありませんが、でも寒くなったので履きだしたジーンズが暑く感じられ、又ショーツに着替えたくらいです。
外で庭仕事をしていた主人も、「暑いー」、と言いながら家に入ってきて、半ズボンに着替えていました。
南アフリカからの風が吹いて来たようです。

さて、昨日私は美容院へ行きました。
私の小さな町にある美容院です。
小さな町ですが、美容院がなんと4件もある。
一件は若い人向き、特に男性客が多い様で、2件目は奥様方用、3件目はおばあちゃん達用、そして四件目は・・・、誰が行くのでしょう?

とにかく、こちらの美容院に行く時は、一種の覚悟のようなものが要るのです。
どうしてかというと、自分の思ったように出来あがらないからです。
一応こうして欲しいと説明はするのですが、後は美容師さん任せで、びっくりしながら、又はがっかりしながら美容院を出て来る事になります。

私がスイスに住んでいたときは、ロサンジェルスで12年間美容師のお仕事をしてきたという日本男性がお店を開き、彼にいつもやってもらっていました。
やはり日本人は日本人の髪質をよく知っていますから、「自然にやって」とか「軽―くネ」なんて言うニュアンスも良く分かってくれて、本当にこちらの納得するような髪に仕上げてくれたものです。

それがこちらでは、この余りはっきりしない表現は分かってもらえません。
やはりお国柄でしょうか。切るなら切る、染めるなら染める、と白黒がはっきりしていないと気がすまないようです。
せっかく美容院に行くのだから、出る時には何かの変化がなければと思っているようです。

一度トスカーナに来たばかりの時、私の町の美容院に行き(奥様方用です)、「メッシュにしてください」と頼んだ事があります。
私の知っているメッシュとは、ごく細い明るめの色を髪に入れるものですが、なんと私の行った美容院では、前頭部に幅5cmほどのブロンドを入れられてしまったのです。
あの当時の私のイタリア語はなんともおぼつかないものでしたが、それでも私の中でメッシュとは細いものだという考えがありましたから、まさか幅の大きさまで言わなければいけないとは思いもしませんでした。
ショックでした。
こんな頭で外に出れない、と思い、

「この色はひどい、それにこんなに幅広くして・・・」

と一応文句を言いましたら、

「じゃあ、黒い色で幅を狭くしましょう」

といい、ブロンドにした所の半分を黒に染めてくれました。もうめちゃくちゃです。
仕上がりを見ると、まだ3cm幅のブロンドが入ったままでしたが、もうこれ以上美容院に座っている気持ちもなくなり、そのまま外に出ました。
私としては何という髪色だ、という気持ちが強かったのですが、回りの反応はそれほどでもなかったのが不思議でした。

この事があった後、私は車で40分ほど走った海辺の大きな町にいい美容院があると聞き、しばらくはそこへ通いましたが、料金が高いばかりで大した事もなく、往復するのに時間もかかることで、又自分の町の美容院に戻りました。

私の行きつけ(!)の美容院は美容師とヘルパーだけの美容院です。
美容師の名前はアンナ。
髪が赤くて縮れ毛なので、いつも鳥の巣のような髪型をしていて、顔が少しだけ魔法使いのおばあさんのようです。中年ですが、洋服のセンスはまさにイタリア人。昨日も上はタンクトップ、下はスカートにがっしりしたブーツを履いていました。
仕事中でもタバコを吸います。
髪をいじりながら、おもむろに煙草に火をつけ、1回吸ったら、タバコを灰皿に置き、又髪をいじり始めます。(これが嫌で私のスイス人の友達はここに行きません)
髪に夢中になると、タバコの事は忘れ、タバコは灰皿の中で煙を出しながら灰になっていきます。

「タバコは日に何本吸うの?」

と訊いてみた事があります。

「1箱以上は吸うけど、ほら、あんな風に煙だけになっちゃうのよ。でもその方が身体にはいいけどね」

なんて、彼女は笑っていました。

この美容院は、なんと天上にフレスコ画があります。
この美容院がある建物の並びは昔お屋敷だった処で、あちらこちらの部屋の天上から壁にいたり驚く程のフレスコ画が残っているのです。
私が始めてこの美容院に入った時はびっくりしました。天上の素晴らしいフレスコ画に見惚れ、ふっと目を店に戻すと、今度は美容院の隅々に重ねられたいろんなガラクタが目に入ってきました。ちゃんと生理整頓はしているのだけど、ただ積み重ねると言う方法をとっただけのよう。
そして、目の前では美容師がタバコを吸いながら、お客さんと話をしている。
目が点になる、とはこの時のことを言うのでしょう。
こんな美容院は始めてです。いいのかな~ここ・・、とつい爪を噛みたくなるような心配が襲いました。
そして、その結果があのブロンドのメッシュだったのです。

又、この美容院は予約制ですが、予約時間に行っても必ず待たせられます。
20分~30分は待ちます。(これが又スイス人友達の嫌う所)
昨日は30分待ちました。
とにかく、美容師のアンナとお客さんはそれこそ同じ町の人ですから、良く世間話をするのです。時にはアンナは手でジェスチャーをするのに忙しくて、髪の方に手が行きません。
そう言う情景をジーっと見ながら、自分の番が来るまでひたすら待つのです。

いちどこんな事がありました。朝1番8時30分の予約をとり、今日は私が1番だといそいそと行きましたら、店のシャッターがまだ閉ったまま。え?と思っているところにヘルパーがやってきてシャッターを開けてくれました。
「アンナは直ぐ来るからね」と言ってくれたのですが、アンナの前に着たのは別のお客様。フーン、でも私が1番だからね、と思いながら座っているとやっとアンナがやってきました。さあ、私の番だと思っていたら、なんのことはない、私の後からきた女性が先に呼ばれたのです。???が頭の中にふわふわと。
そうしている間に又別の女性が入ってきました。なんだか少しだけ心配になっていると、やはりこの女性が私より先に呼ばれたのです。
もうこの時、私はかなり怒っておりました。せっかく朝早く起きて時間通りにやって来たのに、なんで待たないと行けないのか!ここの予約制はどうなっているのか!もし次に私が呼ばれなければ、このまま美容院を出よう、と決心したいたらやっと呼ばれました。呼ばれるともう怒りは何処かへ飛んでしまっているのですが、でもこれがイタリア式でしょうか。カッカする方が悪いのです。

最初のメッシュで文句を言ったせいか、次回から良くこちらの要望を聞いてくれるようになりましたが、それでも満足して美容院を出たことはありません。
とにかく、こちらの思う「さりげなく」という感じが分かってもらえないようです。
髪を切るなら切ってしまう、髪を染めるならパッと分かるようなまったく違った色に染め上げる。
色が派手過ぎるというと、ダークな色に染めてしまう。いやはや・・・・。

しかし、昨日は、始めて私は満足して美容院を出たのです。
友達がいれてくれたメッシュが夏の間に明るくなりすぎた為、髪全体を染めてもらおうとアンナの所へ行ったのですが、椅子に座るとそのまま色を調節し始めました。

「ちょっと、私がどんな色にして欲しいのか分かっているの?」

と訊くと、

「この前と一緒の色でしょ」とくる。

「いいえ、今日はそうじゃなくて、この間はダーク過ぎたから、今日は少しだけ明るい色がいいんだけど」

とまた微妙な事を言い出す私。
途端に彼女は困ってしまい、「ちょっとだけ明るい色なんて言われても・・」とぶつぶつと言っています。
髪の色の見本はないのかと訊ねると、この前の色は自分達で調合したからないのだとか。それからなんだかんだとやり取りし、結局は前回はコーヒー色だったから、今日はチョコレート色にしよう、という事に決まりました。
あとは、度胸を決めて「どうかいい色に染め上がりますように!」と祈るのみです。

果して、結果は最高でした。
「チョコレートと言うより、前の明るい色の部分を少し残したから、今日はマキアートだね」、とアンナが言い、座っていたお客さん達と一緒にわはっ、はっ、はっ、と笑ったのでした。この明るい所がイタリア人の魅力で、なんとも言えません。ここに住んでいることを最高に幸せに思うときです。

アンナとは名前で呼び合うようにまでなったお馴染みさんです。
これからも彼女の所に通う事でしょう。少しだけどきどきしながら。